【症例】40代女性
【主訴】口の中が変な味がする、悪心、息苦しさ
2021年2月16日受診
「2年ほど前からの症状です。口の中で「変な味」がします。酸味のような、金属のような味。食事をしているときは大丈夫です。でも何も食べてないときに、変な味を感じます。不愉快なので、誰もいないときにはいつも舌を出しています。そうすると少しマシな感じがするので。
2年ほど前の同じ頃から、胃腸の気持ち悪さと息苦しさも始まりました。
食欲はあります。でも胸がムッとして受け付けないって感じです。だから、食べれないことがすごくストレスです。
息苦しさは、酸素がうまく吸えてない感じです。深呼吸してさえ、ちゃんと呼吸できてないようなもどかしさがあります。特に過呼吸というわけではありません。
すでに栄養療法を実践していて、食事には気を遣っていますし、MSSのサプリを処方してもらっています」
味覚異常に対して、どうアプローチすべきか?一体原因は何だろう?
たとえば、チェルノブイリ原発事故の救出活動中、多くの作業員が「金属の味を感じた」と報告している。
頭頚部の癌に放射線治療をすると高い確率でdysgeusia (味覚異常)を生じることは、放射線科医にとって常識だろう。つまり、放射線被爆によるmetallic taste。これがひとつの可能性。
「頭部CTをしょっちゅう撮ったりしたことは?」と一応聞いてみる。「子供のときに病気がちでよく入院していました。レントゲンを撮ったことは普通の人より多いかもしれませんが、CTを撮ったことはありません」
「味覚異常」と聞いて、医学部の学生が最初に思い出すべき鑑別疾患は亜鉛欠乏である。しかしこの点については、患者のほうから先回りして「亜鉛のサプリはしっかり摂っています。1日30㎎。むしろ摂りすぎということはないですか?」
薬剤性に味覚異常を起こすことがある。たとえば抗生剤(テトラサイクリン)、アロプリノール(痛風治療薬)、リチウム(躁症状に)などである。これらの薬を飲むと、成分が胃腸で吸収され、体内を巡り巡って、一部が唾液腺に到達する。それで「口の中に妙な味がする」となる。あるいは、抗うつ薬によって口腔内が乾燥(ドライマウス)し、そのせいで味覚がおかしくなることもある。
「薬は何も飲んでいません。飲んでいるのは、サプリだけです」
重金属曝露によって味覚障害を生じ得る。たとえば、水銀や鉛を扱うような職場で、これらの重金属を大量吸引するケース。
「コンサル業をしています。仕事で重金属に接する機会はまずないです」
うーむ、分からない。
こういう場合は、よかれと思ってやっている治療が、逆に症状を増悪させる可能性を疑ってみる。たとえば亜鉛サプリを飲んで「味がおかしくなった」という患者(30代女性)を経験したことがある。亜鉛、銅、クロム、鉄、カルシウムあたりは、過剰摂取によって味覚変化を起こし得る。「ミネラルサプリはどういうのをお飲みで?」
「鉄を1日36㎎。あと、セレン200μgも飲んでいます」
うーん、一応容疑者だけど、保留かな。
要するに、味覚異常の線からは、捜査が行き詰ってしまった。しかし「打つ手なし」かというと、全然そんなことない。他の症状(悪心と息苦しさ)への栄養的アプローチが、同時に味覚の異常をも改善した、となってくれるとありがたい。
悪心は、まず間違いなく、腸のdysbiosisが背景にある。何らかの原因で腸内細菌叢が乱れているに違いない。そこで僕が推したいのは、麹である。味噌汁はもちろん、肉や魚は塩麴で味付けするように努め、麹水を毎日積極的に摂取するよう勧める。必要に応じて、茶麹のサプリも使うといい。
フルボ酸の液体サプリもいい。腸の炎症を鎮める作用もあるが、それより何より、この患者の場合、ミネラル補給の意味合いが大きい。いったん鉄や亜鉛をやめて、フルボ酸に切り替えてみる、というのもありかもしれない。
息苦しさに対しては、何といっても、有機ゲルマニウムである。赤血球の代謝亢進とともに、酸素の発生作用によって、すみやかに息苦しさを軽減してくれるだろう。
3月8日再診。
「悪心は8割方なくなりました。食事が食べられるようになりました。息苦しさも8割なくなりました。息をしても酸素が吸えてないような、あの妙な感覚はなくなりました。
舌の変な味については、あまり変化ありません。せいぜい、多少効いたかな、程度です。
効果を一番実感したのはフルボ酸です。私、鉄については、これまでずいぶん悩ましい思いをしてきました。
若い頃からずっと貧血持ちで、冷え性、立ちくらみ、生理痛やPMSなど、いろいろな症状に苦しんでいました。栄養療法のことを知って、最初に試したのがヘム鉄です。おかげで冷え性が楽になりました。でも、いま一歩でした。そこで次に、キレート鉄の存在を知って、試してみたんですね。すると、立ちくらみが見事に治まりました。でも、その代わり、気分が悪くなって、便の性状もひどくなりました。
体に合ってないのかな、と思ってキレート鉄をやめると、今度は生理痛がひどくなる。今まで経験したことのないくらいひどい生理痛です。普通に一日を過ごすこともできません。それでキレート鉄を再開すると、生理痛が楽になる。でもやっぱり気分が悪くなって、便も真っ黒で。やめると、また生理痛がひどい。
進むも地獄、戻るも地獄といった有り様で、本当に困っていました。そこで、先生が勧めてくれたフルボ酸です。今、鉄剤は何も飲んでないです。でもまったく貧血っぽい症状がありません。いつもPMSの頭痛がひどいんですが、この前来た生理では全然頭痛がありませんでした。こんなことは私の人生の中で初めてです。
貧血もなく、便の状態も最高で、生理痛もない。本当に助かりました。
ゲルマニウムの効果にも驚きました。飲んでから、息苦しさが激減しました。ちゃんと酸素が吸えることのありがたさを、しみじみ感じます。
ただ、ゲルマニウムは多すぎると、ちょっとしんどくなるようです。1瓶を1週間で飲む程度が私には合っているようです。一気に多めに飲むと、少し苦しい感じがします。
先生、前回の診察のあとで思い出したんですが、考えてみれば、私、変な味は2年前どころか、20年以上前、独身時代からときどき感じていました。さびたスプーンをなめたような味です。実際にさびたスプーンをなめたことはありませんが(笑)」
結局、この患者の「変な味」については、うまく治すことができず、現在も経過フォロー中である。しかし、悪心と息苦しさに関しては、処方がばっちりはまったようだ。
すでに有機ゲルマニウムについてはそれなりの症例数を重ねているから驚きはないが、フルボ酸の潜在能力には目を見張るものがある。少なくとも鉄欠乏性貧血の治療において、こんなに理想的な治療法は他にないのではないか。鉄剤の副作用(フェントン反応による活性酸素の発生など)がなく、鉄以外のミネラルも同時に補給できる優れモノで、もはや鉄剤を使う理由がなくなってしまう。
僕もまだ手探りで全体像を把握しているわけではないが、その有効性が広く知られれば、少なくとも鉄欠乏性貧血の治療において、鉄サプリをすっかり駆逐してしまう可能性があると思う。