以前の記事で、草刈健太郎さんのことを紹介しました。
https://note.com/nakamuraclinic/n/n2b1e3901ddd8
18年前、草刈さんは妹を殺された。憧れのハリウッドで映画関係の仕事をする自慢の妹だった。その妹が、交際していた男に殺された。全身をナイフでめった刺しにされて。
許せない。できれば自分の手でその男を殺したい。妹が感じたのと同じ苦しみを与えたい。復讐の念は草刈さんの心を焼いた。どうやって殺せばいいだろう。殺し屋を雇うことさえ真剣に考えた。
絶望的な悲しみと怒りのなかで、日本のマスメディアへの対応、葬式の手配、自身が社長を務める会社の業務指示など、あまりにも多忙で頭がぼんやりしていたとき、妹から”メッセージ”が届いた。背中がじんわりするような温かみを感じると同時に、妹の声が聞こえた。
「お兄ちゃん、ごめんな」「福子、そっちはどうなんや?」「私は今、いいところにいるよ」「助けてやれんでごめんな。痛かったやろ?」「痛かった。でも一瞬やった。あの人のこと、恨まんといて。根は悪い人じゃないから」「それは無理や」「お兄ちゃん、心配せんといて。私はこっちで楽しくやってるから」「お前は悔しくないんか」
復讐の念に燃える兄を見かねて、メッセージをよこしたのかもしれない。
その後、心神耗弱による無罪を主張した男と長らく裁判を争い、2009年男の有罪判決(禁固16年から終身禁固の不定期刑)を勝ち取った。
4年間で総額7000万円の裁判費用がかかった。勝利の達成感は確かにあったが、それは一瞬のことで、それが過ぎ去ったあとには心に大きな穴があいた。ふと頭によぎるのは、「あの男は刑務所に入ることで反省するようになるのだろうか」ということだった。妹に心から謝罪する日は来るのだろうか?裁判に勝ったからといって、映画のように「めでたしめでたし」一件落着とはいかない。
法で裁く、という目的は達せられた。しかしこれまで裁判に向けていた感情やエネルギーが行き場をなくし、心に穴が開いた。その穴に流れ込んできたのは、妹を死なせてしまった後悔と罪悪感だった。俺みたいなバカは死んだほうがいい。死んだらこの苦しさから解放されるだろうか。死んだらあの世で福子に会えるだろうか。
そんなときに、夢に妹が出てきた。妹は兄に「あの世」と「この世」のことを教えた。「お兄ちゃん、人はね、「担い」を持って生まれてくるねんで」
「担い」は人が生きてる間にするべき使命のこと。それから、「あの世」には階層があって、それは「この世」で行った「担い」とか「善行」で決まってくる。「ちなみに私はけっこう上の階層におるんよ(笑)」
「そら福子、お前はええ子やったからな。上の階層にいるのは当然や。今こうやって俺に会いに来てくれたみたいに、おかんにも会いに行ったってくれ」「いや、お兄ちゃんやからこうやって会いに来てん。お母さんには会われへん」「なんで?」「お母さんの人生を狂わせてしまうから」「どういうこと?」「お母さんが私と一緒に生活できると思って、こっちに来たら困るやん」
ふと目が覚めて、これまでの会話が夢であることに気付いた。夢にしては奇妙なほどリアリティがあって、不思議な感覚にとらわれた。
今しがた見た夢のことを、両親や姉に話した。「福子の夢を見た。あの世で仲良くなった人がいて、お世話になってると。葛西さんっていう名前の人」
すると姉が「あれ?何か聞いたことある名前やな」と何か思い出して、調べてみると、福子が世話になっている人の名前は、母方祖母の旧姓だった。祖母の旧姓なんて知らなかったし、妹も知らなかったはず。なぜそんな情報が夢の中で出てくるのだろう?ひょっとして、あれは単なる夢ではなく、本当に福子が会いに来てくれたということか、、、お前が夢枕に立ってまで俺に伝えたかったことって、何なんや?
「お兄ちゃん、人は「担い」を持ってこの世に生まれてくるんよ」
俺の「担い」は何か?絶望のどん底にいる自分に「担い」など果たせるだろうか?
2012年、ある社長から「職親プロジェクト」に誘われた。「職親プロジェクト」とは刑務所から出所してきた元受刑者を雇い入れ、社会復帰の手助けをする就労支援プロジェクトである。日頃からお世話になっている社長の申し出を無下に断ることができず、「はい、いいですよ」と反射的に言ってしまったが、言ってから後悔した。
「なんで俺が犯罪者の面倒を見なあかんねん!」
しかし「やる」と返事してしまった以上、やらないといけない。とりあえず適当に参加しておいて、そのうちフェードアウトすればいいか、と考えていたが、、、草刈さんはこのプロジェクトに誰よりも深く関与していくことになった。活動を始めて、現在7年目。すでに多くの受刑者を受け入れてきた。
2023年3月某日、新大阪にある草刈さんの会社の一室で、僕は草刈さんを前にプレゼンをしていた。テーマは『栄養と犯罪の関係について』。
妊娠中の食事はすごく大事です。オギャーと生まれてから人生が始まるのではありません。お母さんのおなかの中にいるときから、人生は始まっています。だから、お母さんの栄養状態が胎児の神経系の発達にモロに影響します。たとえば、妊娠中に良質の脂質(ω3系PUFA)が多いと脳発達が好ましく、逆に、少ないと脳容積が小さくなるという相関があります。
妊娠初期のお母さんの血中PUFA(多価不飽和脂肪酸)量が少ないと、その子供が5歳になったとき、攻撃性、反抗性、粗暴さがより顕著になります。
つまり、犯罪傾向の芽は、すでに妊娠中から始まっているということです。
ADHDの子供にマルチビタミン・ミネラルのサプリを10週間投与すると、児の攻撃性、かんしゃく、他の児とのケンカ、感情激発が有意に減少しました。
ADHD児童を対象にした研究ですが、
ご覧のように、ADHD児童は感情や行動のコントロールがきかず、学校でいじめを受けやすく、また、犯罪をおかすリスクも有意に高いというデータがあります。
ビタミンやミネラルのサプリでADHD症状が緩和されるとすれば、それはそのまま、後年犯罪に走るリスクを低下させることにもつながると考えます。
ズバリ、受刑者に直接介入した研究があります。対象群にサプリを投与し、コントロール群にプラセボを投与する。その結果、サプリ投与群で刑務所内でのルール違反の件数が、プラセボ投与群に比べて34%減少しました。
同様の研究は複数あります。たとえば、もうひとつあげると、
やはり、サプリ投与群で暴力行為の発生件数が35%減少しました。
なお、上記の研究で使ったサプリは下のような栄養組成です。
いずれのサプリにもiodine(ヨウ素)が含まれていますが、個人的には、最近ヨードに大いに注目しています。
また、上記の研究では使われていませんが、有機ゲルマニウムやCBDオイルも受刑者のメンタルに好ましい影響を与えると考えています。
草刈さんは、刑期を終えて出所した人の再犯率の高さに頭を抱えておられるとうかがいました。
そこで、僕からの提案としては、受刑者にサプリを飲ませてはどうか、ということです。
受刑者全員というのは予算的に厳しいとすれば、たとえば20人くらい、特に犯罪傾向が強かったり問題行動が目立っている人を選んで、食後にサプリを飲んでもらう。
事前の調査として、PCL-R(サイコパシー・チェックリスト)などを使って受刑者の精神状態をチェックしておく。
それで、サプリをたとえば半年ほど飲ませてから、もう一度同じ検査をして、反社会的傾向などが改善しているかどうか調べる。
きっと好ましい結果が出ると思います。
いわゆる犯罪者というのは、一般の人と違う何か特殊な人種なのかというと、全然そんなことはありません。栄養状態がメンタルに及ぼす影響は極めて大きいものです。「犯罪傾向」というのは結局のところ、偏った栄養状態のひとつの現れに過ぎないと思います。
ものすごい極悪人が犯罪を犯すのではありません。ひどい栄養状態による精神荒廃がその人を犯罪に走らせる。それだけのことではないか、と。
もちろん愛情も大事な要素です。愛情は心の栄養ですから。しかし同時に、体という肉体を養う栄養素も精神の健全な発達に極めて重要です。
刑務所は、懲罰の場というよりも、更生の場であるべきだと思います。そして、本当の反省、本当の更生は、栄養状態の改善によりメンタルが安定して初めて可能になると思います。
僕の知識が草刈さんの活動に少しでも役に立てれば幸いです。
草刈さんの「担い」は、受刑者の更生支援かもしれない。出所してから居場所のない元受刑者に仕事を提供し、少しでも再犯率を下げ、よりよい社会にしていく。妹さんは「それがお兄ちゃんの「担い」なんだ」と伝えたかったのかもしれない。
さて、そんな草刈さんに協力したいと思っている僕の「担い」は何だろう?
【参考】『お前の親になったる』(草刈健太郎著)