おかしな言動をする人に対して「頭がおかしい」などと言うように、世間一般の人は「精神疾患は脳の病気である」と考えている。
しかし、腸内細菌の研究が進むにつれて、「精神疾患は腸の病気である」という説が登場した。『腸脳相関』という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。
さらに、第3の新説「精神疾患はホルモンの病気」という考え方がある。具体的には「精神疾患はHTPアクシスの内分泌異常である」。
HTPアクシスというのは、視床下部(Hypothalamus)、下垂体(Pituitary)、甲状腺軸(Thyroid)の頭文字をとったもので、これら3つのホルモン分泌器官の連携によって体内の恒常性が維持されているという考え方のことだ。
この説については、すでに以前の記事で、統合失調症の患者がチラージン(合成の甲状腺ホルモン剤)を飲んで劇的に改善したエピソードについて紹介した。
https://clnakamura.com/blog/5257/
https://clnakamura.com/blog/5264/
https://clnakamura.com/blog/5266/
「統合失調症患者が甲状腺ホルモン剤を飲んで症状が改善した」などと聞くと、ほとんどの精神科医は言下に否定するだろう。「そんなことはあり得ない」と。しかし本当なのだから仕方ない。
以下の症例では、甲状腺ホルモンではなく、ヨウ素を飲んで症状が軽減したエピソードを紹介しよう。
【症例】30代男性
【主訴】統合失調症
2022年1月26日当院初診。
「発症したのは去年の11月で、幻聴がメイン。たとえば今日はここに車で来たんだけど、ふと『運転気を付けてね』みたいな声がする。幻聴かそうでないかははっきり分かる。あと、テレビを見てるとか聴覚を何かに集中してると幻聴は起こりません。声は人間のものではありません。右翼が街宣車でがなり立てるような声ってあるでしょ。あれが遠くのほうで聞こえる感じです。明らかに異質な声です。
実はもともとの病的な症状は21歳のときが初発で、そこから薬を飲んでいます。リスペリドン2㎎ですが、最近幻聴の影響で3mgに増やしました。これ以上増やしたくないので、ここに来ました。
小麦とか甘いものを避けたり食事には気を付けてるし、ナイアシンやマグネシウムのサプリを飲んでいます。ナイアシンは3000㎎とか多めに飲んだけどよく分からない」
2022年3月1日受診。
「幻聴はだいぶ減っています。一番ひどいときを10だとすると、今は2か3ぐらい。周期的にまだ少しあります。
何が効いたのか、分からない。恐らくゲルマかなという体感だけど、ひょっとしたらCBDオイルかも。でもどっちも効いた気もする。
減薬したい。今はリスペリドン3mgなので、減らしたい」
2022年4月2日受診。
「幻聴はまったくない。3月は多少あったけど、4月に入って完全に消えた。
しかも、リスペリドンは2.5㎎に減らせてる。
ただ、自分の体からにおいがする。家族は否定するけど、自分の体臭が気になる。これは大学受験のときに周りから「くさい」と言われて、気になるようになった」
その後、症状はよくなったり悪くなったりをゆるやかに繰り返し、1年ほど経過した。
2023年5月12日受診。
「前日に甘いものを食べたり外食すると翌朝から幻聴が出る。
よさそうなサプリを自分なりにいろいろ試していますが、ぱっとしません。シトルリンとかダメでした。オメガ3のサプリはメーカーによって質が違いますね。中国製、イタリア製、日本製を試したけど、結局日本製が一番よかった」
このとき、初めてヨウ素サプリを勧めた。1日1滴とか2滴とかごく少量で試してください。
2023年7月12日受診。
「幻聴はほぼありません。せいぜい10日に1回程度。大雨で雷が鳴ってるとか、気圧が悪いときに聞こえる程度です。
あと、一番驚いたのは、自分の体のにおいが消えたこと。最近夜によくオナラが出ていたけど、出なくなったし、出てもにおいがない。これには本当に驚いた。ただ、2滴ではなくて3滴飲んでます。レビューで「6滴飲んでる」って人がいて、それぐらい増やしても大丈夫なんだなと思って。増やしてからますます効果を感じました。
本当に、すごくよくなった。何かのサプリがこれほどスパッと効いたのは、ゲルマニウム以来です。
ただ、ゲルマは金銭面の負担が大きいので、ちょっとずつ減らしていきたい。ヨウ素は安いので、ゲルマを減らす助けになると思う」
まず、「ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料である」という事実がある。
次に、上記のように、ヨウ素の服用によって統合失調症が改善したという事例がある。
これらのことを合わせて考えると、「統合失調症はホルモン疾患である」という仮説はあながち間違っていないように思える。
ただ、現時点で僕も確信はありません。というのは、統合失調症患者全員にヨウ素が効くわけではないからです。ある女性患者に勧めたところ、「むしろ悪化した」とのこと。試すとしても、まずは慎重に、1滴、2滴とごく微量から始めることです。
統合失調症に対して、アシュワガンダを使うことはかなり前からやっていました。アシュワガンダというのは、インドのアーユルヴェーダ医学で古くから用いられていて、別名インド人参とも言われる。
ちなみに、「なんちゃら人参」という表現の本家は、当然朝鮮人参です。朝鮮人参に様々な薬効があって個人の体感レベルでもよく効くことは昔から有名で、その本家にあやかって、強壮作用のある根茎ハーブは「産地プラス人参」で呼ばれることが多い。インド人参もそうだけど、他にも、エレウテロ(エゾウコギ)をシベリア人参と呼んだりするように。
アシュワガンダについても過去記事でけっこう紹介していて、たとえばこんな記事。
https://clnakamura.com/blog/1895/
アシュワガンダも朝鮮人参もエレウテロも、アダプトゲン(抗ストレス作用のあるハーブ)に分類されている。要するに、飲めば元気になるんです。
たとえば、
競輪の選手40人を、アシュワガンダ投与群(500㎎を1日2回)とプラセボ群に分け、8週間後にパフォーマンスを測定すると、アシュワガンダ投与群で明らかに心肺機能や体力が高まっていた。
高めるのは身体機能だけではない。以下の研究にあるように、
アシュワガンダ投与群はプラセボ群に比べて、集中力、短期記憶、作業記憶がアップした。
つまり、メンタルも強くすることが分かっている。だから、僕は認知症やうつ病の人に勧めることもけっこう多いんだけど、以下の研究のように、統合失調症の人にも勧めたい。
統合失調症患者をアシュワガンダ投与群(1日1000mg)とプラセボ投与群に振り分け、12週間後に比較すると、PANSSスコアがアシュワガンダ投与群で有意に改善した。
なぜアシュワガンダで統合失調症が改善したのか?
その背後に、甲状腺機能の改善があるんじゃないか、というのが僕の仮説です。
アシュワガンダ投与群で、TSH、T3、T4がプラセボ群に比べて有意に改善する。
アシュワガンダはヨウ素よりも使いやすいです。つまり、ヨウ素は人によっては作用が強く出て副作用があり得るけれども、アシュワガンダは、さすがアーユルヴェーダで大昔から使われてるだけあって、副作用はまずない。ただ、効果についても、それなり、という印象です。